「変わってしまった」と嘆くより、「今を変えよう」と必死に足掻いた結果、何をしようとしたか忘れた。

2025.02.21

「変わってしまった」と嘆くより、「今を変えよう」と必死に足掻いた結果、何をしようとしたか忘れた。

——分岐点という言葉は好きじゃないんだ。

バトンを受け取った私は呟いた。

まるで何かに感化され、私という存在がすっかり変わってしまったかのように思える。

「だが渡邊、それは人間として至極当たり前のことなんだ」



ある日道を歩いていた私は、宙を舞っていた。

目を開けると真白いお姉さん。

「岩本さん、ご飯ですよ」

「...ありがとうございます」

周りには白けた顔のお爺さん。

「意識はありますか?自分の名前わかりますか?」


数日後、私は軽トラに跳ねられ意識不明の重体だったことを聞かされた。

全くもって記憶がなく、本当の私というものが思い出せなかった。

これもいい思い出。




「お前らみたいな出来損無いはいらん」

泣いてうずくまる母と、呆然とする妹、弟。

12の冬、父親だった人は、私の前から姿を消した。

季節外れの衣替えにふるえた夜。

これもいい思い出。




「ワン、ワンッ」

家に帰れば可愛いももちゃん。

これは友達の犬。



私に分岐点などなかった。

常に変わり続け、変わらないのは「変わり者」であったこと。

安定や幸せなどとうに乾いて、やけど跡みたいにポロポロ。

涙の代わりだろうか。



だが一つ言えることは、過去の思い出はどれも、とても役に立つということだ。

辛かった思い出、悔しかった思い出、可愛い思い出。

どれも今を生きるのに不可欠な、私の自慢の武器である。

分岐点があるから変われるのではなく、思い出を紡いで今を変えて行くのだ。



弊社は一風変わった会社であるが、その変わり様がやけに心地よく、気づけば早2年。

当たり前のことを当たり前にやる、笑い声が絶えない良い会社。

ふと風が吹いて、爽やかなシトラスの香り。

香水よりも明らかな、色のついたそれは、都会の高層ビルに埋もれることなく実っていた。


Lime。






この続きは私の上司、林治希へ。

お題は「もしもピアノが弾けたなら」
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